PMO

PMO人材は一生食うに困らない?

更新日 2022/05/16
一生食うに困らない人材になるためには。PMOとして、グローバルプロジェクトや新規事業立ち上げのプロジェクト、そしてプロジェクトのトラブルーシューティング等、多くの経験を持つ筆者が、このテーマに関する、ひとつの手段として、PMO人材(プロジェクトマネジメントオフィス人材)について、述べさせていただきます。

1.PMOとは

まず、PMOとは何であるかについて、簡単に整理します。PMOはプロジェクトマネジメントオフィスの略ですが、日本でいうとプロジェクト管理事務局と訳すことができます。

1.プロジェクト管理って何をするの ?

プロジェクト管理における、具体期な作業項目や要素については、本稿の3章「PMOに必要な要素」で詳細を説明しますが、まずは大まかに、プロジェクト管理とは、「プロジェクトの目的を達成するために、Q(品質)、C(コスト)、D(進捗)、S(スコープ)等についての計画策定と実行管理する」ことであると理解ください。

2.PMOの種類には何がある?

PMOのタイプには、支援型、管理型、指揮型の3つの役割がありますが、いずれの場合も、プロジェクトマネジャー(以下PM:プロジェクトの責任者)をサポートするのがPMOの役割になります。 事務局といえば、事務を処理するといった作業のイメージがあるかもしれませんが、その役割に近いのは、支援型のPMOといえます。本稿では、PMが行うべき各種作業を監視し課題解決まで行う役割(管理型)や、PMの意思決定を支援、時には代替する役割(指揮型)のPMOなど、より権限を持ち、踏み込んでプロジェクトの運営を行うPMOを想定して記載します。(詳細については以下のリンクを御覧ください) お役立ちコラム:PMO特集 ~フリーランスのコンサルタントが知っておくべきPMOの役割~

2.PMOの存在意義

それではPMOはなぜ必要なのでしょうか。PMOの存在意義を3つの観点で整理しています。

1.プロジェクトには、必ず必要なもの?

プロジェクトの規模によっては、昨今の各種プロジェクト管理ツールの発展もあり、PMOが必ずしも必要ではないケースもあります。しかしながら、プロジェクトを計画通りに進捗させるためには、その状態を可視化するという機能は必要で、それがないと、いつまで経ってもプロジェクトが終わらない、または、PMが適切に状況を把握できず、プロジェクトが上手く回らない、という結果に陥りがちです。

2.PMOがある場合とない場合で何が違う?

PMOが設置されたプロジェクトの場合、PMの仕事が減ります。プロジェクトにおける進捗や課題の把握はPMにとって必要な任務ですが、全て自分で集める場合と、PMOが収集する場合とでは、PMの工数が格段に減りますし、PMの重要な役割である、意思決定に集中することができます。しかしながら、数名程度の小規模のプロジェクトにおいてPMOを設置すると、PMOを介することで、PM自身が、現場の生の情報にふれることができず、正しい判断をできないケースもありえますので、プロジェクトの規模や性質によってはPMOを設置していないほうがよい場合もあります。この点は、第5章「PMOに関するプロジェクトと会社経営との比較」でも述べます。

3.PMOの存在はプロジェクト以外にも応用が効くもの?

第1章で述べたような、目的を達成するために、Q(品質)、C(コスト)、D(進捗)、S(スコープ)等についての計画策定と実行管理をする、ということに合致するものであれば、例え一人でやることであっても、プロジェクトと呼んでしまってもよいと思います。その意味ではPMOは、あらゆる状況で貢献しうる存在であると言えるでしょう。なお、本稿の第5章「PMOに関するプロジェクトと会社経営との比較」にて、改めてPMOという存在がどのような状況に対して、どう適用が可能であるかについて述べています。

3.PMOに必要な要素

PMOに必要な要素は多岐に渡ります。以下の図(プロジェクトマネジメントにおける構成要素)に示したように、プロジェクトの立ち上げから終了まで、プロジェクトとして、管理すべき対象がたくさんあります。PMOとして、ガバナンス、マネジメント、そしてモニター機能の観点から、各種要素の情報を取得、整理し、プロジェクトの成功の確度を上げて行くことが求められます。以下のプロジェクトマネジメントの要素の中で、あえて重要なものを選ぶとすれば、計画策定進捗管理課題管理の3つになります。 なぜならば規模の大小を問わず、必要な要素であり、他の要素についても、この3つを押さえておけば、他の要素も含めて、プロジェクト全体をカバーできることが多いためです。例えば、品質管理やベンダー管理で問題が発生した場合は、課題管理のカバー範囲となりますし、プロジェクトの現場からどんな報告が上がろうとも、進捗管理で数字できちんと管理できれば、適切にプロジェクトの状況を把握することができます。 プロジェクトマネジメントにおける構成要素 それでは、3つ重要なものである、計画策定、進捗管理、課題管理について,一つ一つ見ていきましょう。

1.計画策定に必要な要素

プロジェクトにおける計画は、様々なタスクをもれなく洗い出し、だれが、その作業(タスク)をどの順番で誰が行うのかなど、リソースを適切に動かすという観点が重要です。また、どのタイミングで全体の進捗状況を確認するのかといった、リソースが適切に動いているのかを確認するための枠組みを準備するということも必要です。 実際のところ、ほとんどのプロジェクトの失敗の要因はこの計画時点で仕込まれていると言えるでしょう。 計画時にリソースや予算や期間が足りないと気づいても、現実的に実行可能は計画に修正せず、不足のままの状態でプロジェクトを実行した場合、後々に炎上し、にっちもさっちもいかない状態になってしまうケースが多いのは想像できるのではないでしょうか。その意味では、計画策定は、プロジェクトの成否が決まるとも言える難しい作業です。したがって、計画策定には、それなりの経験値が必要で、精度の高い計画を作ることができる人は一流のPMOスキルを持った人材と言えます。

2.実行管理に必要な要素 - 進捗管理

プロジェクトにおける進捗管理であれば、「できませんでした」「遅れています」というプロジェクトメンバーから報告に対し、実際にはどのような状況かを正確に把握することが必要であり、遅れや問題が発生していれば、その原因が何であるかを追求することが求められます。 そのためには、定量的な情報の正確性をいかに担保できるかが鍵となり、例えば、「問題ありません」といった現場からの定性的な報告が本当であるかを見抜く必要があります。この見抜く作業がプロジェクトの立ち上げ当初からできれば、プロジェクトの成功率が格段に上がっていきます。この進捗管理を行う人材には、単に情報を取得するだけでなく、それをどのように正しく取得するか、さらには、その情報から真因を読みとくという能力が必要になります。

3.実行管理に必要な要素 - 課題管理

前段の進捗管理において、何らかの遅れの原因を追求していくと、問題が発見されます。問題自体が、個別の事に起因する場合は、解決が簡単です。一方で、複数の要因が関係し、ユーザーとベンダーのような関係者間の対立を伴うような問題の場合には、解決までの時間がかかり、多数の関係者を巻き込む必要があります。その際に必要になるのが、問題の解決までを追跡する、課題管理というタスクです。 この課題管理においては、その場で解決にいたらなくとも、課題を記録し、いつまでに対応が必要なのかを計画と見比べながら、全体への影響を出さないように、対応期限を決めることが重要です。課題を放置したままプロジェクトを進めると、確実に失敗の道をたどります。その意味で、PMOにとっては非常に重要であり、力の見せ所である作業であるとも言えます。この課題管理を行う人材には、客観的な視点で課題の内容を整理するロジカルシンキング、適切な解決策に導くために、関係者を巻き込んでいくコミュニケーションスキルや人間力が必要になります。

4.人材としての価値 PMO経験を積むことのメリット

それではPMOという経験を積むことのメリットを3つ整理します。

1.メリット1 どんな場面でも必要なスキルが同じ

プロジェクトのフェーズにおいて必要な作業は変わってきますが、進捗と課題を管理するスキルについては、どのような種類や業界のプロジェクトでも変わりはありませんし、できる人材は重宝されます。システム開発の例を上げれば、開発のスタイルによって進捗の管理方法が変わるケースがあるとはいえ、予定通りに進んでいるのか、予定通りに進まないのはなぜか、それをどう解決するのかという点において、考えるべき視点に変わりはありません。 例えば、課題管理表の項目であれば、どのプロジェクトでもほぼ同じになります。具体的には、課題タイトル、課題内容(経緯)、担当者、解決策(オプション)、対応期限、重要度、ステータス、などです。

2.メリット2 一生涯働ける

使用するスキルが変わらないということは、エンジニアのように最新テクノロジーを学び続ける必要性が高くありませんので、人材としての価値がなかなか減っていきません。もちろん、最新のプロジェクト管理手法やツールなどの学習は必要ですが、PMOとしての根本的なスキルには変化はないため、PMOというのは、気力さえあれば、いつまでも続けられる仕事の一つです。また、生涯キャリアの中で発生するイベントでフルタイムワークが中断しても復帰後にも同じスキルが比較的容易に適用できるという意味では、介護や育休などで、一定期間のフルタイムワークが途絶えた場合でも、PMOスキルは復帰後すぐに再利用できます。

3.メリット3 全体感が見える(経営に近い立場になれる)

PMOは、一般的にプロジェクトの全体を見渡すことができる立場にいます。例えば、コンサルティング会社でPMOの経験しかないのにもかかわらず、経験のない業界の事業会社で経営管理業務や経営者の右腕な企業の全体を見据えた職務をこなしている人がいますが、これもPMOとして、常にプロジェクト全体の成功を視野に仕事をしている経験がそのまま活かせているからと言えます。もちろんPMOの仕事をしているからといって、すなわち全体が見える、ということはなく、自ら全体的な視野を持って、進捗や課題管理を行わないと身につくものではありませんが、様々な仕事がある中で経営に近い種類の仕事であると言えます。

5.PMOに関するプロジェクトと会社経営との比較

ここまでPMOについて述べてきましたが、PMOに必要な要素やスキルを身に着けておけば、単にプロジェクトマネジメントというだけでなく、会社の経営や組織管理にも適用できる面が多々あります。なぜなら、筆者もPMOもそうであったように、PMOの経験とスキルだけで、社長として、赤字企業の立て直しを行いましたが、その際には、PMO人材としての経験を、経営に十分に活かすことができました。それではここでPMO人材が会社経営においてどのような貢献ができるのかプロジェクトとの比較を行ってみます。

1.PMOの存在意義

では、ここで、PMOという役割が、プロジェクトの場合もしくは会社経営の場合で、どのような存在意義があるかについて、比較してみます。また、2章で述べたように、PMOの必要性は、規模によっても異なりますので、その点も踏まえて、以下に整理してみました。

2.PMOに必要な要素で重視されるもの

一方で、PMOに必要な3つの要素についても、プロジェクトと会社経営の場合において、何が重要視されるかを比較しました。本来はどちらにとっても重要な点には変わりはないのですが、表面的な運営においては異なるように見える点がありますので、その点を中心に整理しています。

6.一生働ける人材になるためには

以上に述べたようにPMO人材は、会社経営においてもより深い貢献ができる余地がたくさんあります。その意味で、PMO人材がキャリアとして、非常に魅力的ではあることは想像いただけるのではないでしょうか。最後にPMO人材としての経験を積み、一生の職としていくには、どのようなことが必要になるのかについて述べます。

1.すべての仕事をプロジェクトとみなす

冒頭に述べたように、「目的を達成するために、Q(品質)、C(コスト)、D(進捗)、S(スコープ)等についての計画策定と実行管理をする」ということに合致するものであれば、例え一人でやることであっても、プロジェクトと呼んでしまってよいでしょう。 そうすると、世の中のほとんどの活動はプロジェクトと呼べます。したがって、結婚や出産の人生のイベントもそうですし、転職や終活もそうだというぐらいにプロジェクトを気楽に捉えていただければと思います。むしろ、積極的に何らかの目的のある活動をプロジェクトとしてみなし、その中でのPMOとして果たす役割やタスクは何かを自分なりに考えながら行ってみましょう。そうすれば、PMOに必要なスキルがより柔軟な観点で整理することができ、PMO人材として毎日成長することができるはずです。

2.失敗事例から学ぶ

自分で失敗して学ぶことも良いですが、他社のプロジェクトの失敗事例は世の中に転がっていますので、そこでPMOとして何ができたかということをシミュレーションすることは非常に有益です。プロジェクトの失敗とは、品質、コスト、納期のいずれかもしくは計画や目標に達していない、ということですが、その原因は、昔から変わっていません。 ・達成したいことがきちんと伝わっていない ・やるべき作業が追加で発生 ・達成したいことが途中で変わる が主なものです。 システム開発プロジェクトで言えば、それぞれ ・要件定義が不十分 ・追加開発の発生 ・仕様変更の頻発 が例として挙げられます。 そういった状況下で、PMOとしてどう振る舞うか、システム開発プロジェクトの事例で言えば、要件定義が十分になされたのかどうかを、どのように判断すべきだったのか等、失敗事例をもとにすれば、状況のシミュレーションだけでなく、具体的な対策の検討もできます。その検討内容を、実際の現場で活用することができれば、PMO人材としてのスキルや経験値を高めることができるはずです。

3.PMの経験を目指し、それを活かす

これまでPMOを中心に述べてきました。一方で、PMOがサポートするPMという、PMOにとって一番近い立場で仕事をしてみるということも、PMO人材としての経験値を上げるには選択肢になりうることを最後に述べておきます。 単純にPMの立場でPMOというものを客観的に見ることで、PMOというものを知るということもありますが、PMは、会社で言う経営者と同様に重要で責任のある立場であり、責任者という職務は、経験値が非常に上がるということは、社長経験のある筆者としては実感を込めてお伝えしたいことです。 「経営者は孤独である」ことは、経営者にならないとわからないと言われますが、PMも同様で、プロジェクトの責任と最終的には一人で意思決定を行うという、孤独さはやった人にしかわからないと言われます。しかし、責任感を持ち、決断する能力が有り、決断が間違っていても冷静に間違いを認める姿勢があれば、誰でもPMはできます。 また、PMは一般的にやりたがる人はいないので、手をあげればすぐになれる可能性のあるポジションである一方で、万が一失敗をしてもその経験をPMO人材としての経験に活かせば良いので、チャレンジする価値は十分です。少なくともPMを経験することで、自分なりのPMOの理想像が見えてくると思いますし、それだけでもPMO人材としての幅が広がることは言えると思いますので、今後のキャリアの一つとして考慮いただければ幸いです。

7.まとめ

さて、いかがでしたでしょうか。PMO人材は一生食うに困らないとお感じになられたでしょうか。もし、そう感じられたらぜひPMO人材としてのキャリアを選択肢の一つとして考えていただきたいと願いつつ、最後に、以下3点をまとめとして述べて、本記事をしめくくりたいと思います。 ・PMO人材は、プロジェクトに限らず、会社経営全般で活躍できる人材になりうる。 ・だからこそ、PMO人材として一生働き続ける事ができる ・そのためには日常の出来事もプロジェクトとみなしPMO人材としての成長を目指すことも必要
執筆者:内野 権

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