PMO

事例から読み解く「PMO」という役割

更新日 2022/05/16
コンサルタント業やエンジニア業を経験した方であれば、必ず耳にしたことのある言葉。「PMO」Project Management Office、そのまま直訳するとプロジェクト管理事務局となります。 では、実際にプロジェクト管理とはどんな業務なのでしょうか。そして、プロジェクト管理において「PMO」はどのような役割を担っているのでしょうか。本記事では、弊社が実際にPMOコンサルタントとしてご支援したプロジェクト事例をもとに、その実態をご紹介していきます。

1. 「PMO」に求められる機能

「PMO」が浸透し始めの当初は、プロジェクト規模の拡大やプロジェクト数の増加により「プロジェクトマネジャー」にかかるプロジェクト管理業務負荷が増大したことを補完するPM支援が中心でした。具体的には、プロジェクト内のタスク進捗状況を収集・整理したり、課題の検討状況をモニタリングしたりといった管理実務です。 昨今、ますます規模拡大やプロジェクト数は増加し*¹、複雑化を増してきています。更にビジネスの変容に呼応するためのスピードへの要求も高まりつつあります。そうした変化の中で、「PMO」に求められる機能も増加してきています。 *¹:JUAS「企業IT動向調査2018」(IT予算の速報値)によると、IT投資の伸びは過去10年で最高水準を記録

1.火消し的手法では時代遅れ!これからの「PMO」とは

「PMO」への期待は、一言で言ってしまうとプロジェクトを成功に導くことです。残念ながらプロジェクトが何の問題もなく推進し完遂することはほぼありません。そしてプロジェクトにおける問題は、プロジェクトが複雑になるほど多く、そして難易度が高くなる傾向があります。 かつてのように、進捗や課題をモニタリングし問題が明らかになってから対処をする火消し的な手法では、問題発生のボリュームについていけません。更に一つの問題から連鎖的に広がる影響範囲も、以前と比較 して確実に広くなっています。また、問題の解決においても複数の関係者が関わることで単純には進められなくなっています。時には、他プロジェクトや事業組織とも協力して対処を迫られることも少なくはないのです。 「PMO」には、プロジェクトのゴールであるQ(=品質)、C(=コスト)、D(=納期)を達成すること、その阻害要因となる問題発生をできる限り未然に防止し、発生時には適切な手段をもって解決することを求められているのです。 そしてその判断をプロジェクトマネジャーが適切に行えるよう、日々の管理業務を計画・整備・推進していく必要があるのです。

2.「PMO」を分類する

ここまでは「PMO」への期待について、広く一般的な観点で概念に触れてきました。しかしながら、プロジェクトはそれぞれ異なった目的があり、当然達成すべきゴールも違います。また、同じプロジェクトでもフェーズによってタスク内容や、場合によってはメンバー構成も変化します。 このようにプロジェクトにも個々の特徴があり、それぞれのプロジェクトにおける「PMO」の在り方にも特徴が出てきます。ここからはその特徴を3つの階層と3つのタイプに分類し、「PMO」の役割をより具体的に見ていきましょう。(PMOの階層・タイプについては「PMO特集 ~フリーランスのコンサルタントが知っておくべきPMOの役割~」でも解説しています。)
< 「PMO」の3つの階層 > ・ポートフォリオマネジメント 全社を対象とし、戦略的な観点から社内ソースに対して資源配分の意思決定を行う ・プログラムマネジメント 組織内の複数のプロジェクトを対象とし、横断的にプロジェクト業務標準化や個別プロジェクトの管理支援を行う ・プロジェクトマネジメント 1つのプロジェクトを対象とし、そのプロジェクトのゴールを達成するためのプロジェクト管理業務の遂行を行う
< 「PMO」の3つタイプ > ・指揮型PMO プロジェクトの重要な意思決定に関与したち、プロジェクトを統括する役割を持つ ・管理型PMO プロジェクトの品質・コスト・納期を管理するためのプロジェクト管理標準を整えるとともに、管理業務運用の役割を持つ 必要に応じて、プロジェクト推進の問題を解決する ・支援型PMO プロジェクトタスク推進のサポートをする役割を持つ
プロジェクトの目的や内容に応じて階層とタイプを組合せて「PMO」を組成します。但し、タイプについてはどれか一つのタイプだけを選択するだけでなく、複数のタイプを複合した機能を持つ場合も多くあります。 例えば、プロジェクトメンバーが潤沢なプロジェクトであれば、支援型PMOはあまり必要とされず管理型PMOの必要性は高まります。逆に、現業との兼務を抱えたメンバーが多い場合には、支援型PMOとしてプロジェクトタスク自体を推進する役割をプロジェクトに備える必要があります。 複数のタイプを複合した「PMO」では、PMOコンサルタントとして自分のタスクがどのタイプの役割を担っているのかを把握・理解することが大切です。

2.プロジェクトによってこんなに違う「PMO」~PMOコンサルタントが発揮したスキル~

前章で既に触れましたが、「PMO」とは画一的な役割・組織ではなく、プロジェクトの状況に応じて最適な組成をすることが重要です。当然、その組成に応じて「PMO」としての役割と作業が異なるため、PMOコンサルタントが身につけておくべきスキルも変わります。 ここからは、弊社PMOコンサルタントが実際に参画した案件から、プロジェクトの規模・内容に特色のある事例をご紹介し、それぞれのプロジェクトでPMOコンサルタントにどのようなスキルを求められ、活動したかを見ていきましょう。

1.組織改革プロジェクト事例 ~コミュニケーション基盤の確立~

< 事例概要 > 業種:家電メーカー 目的/背景:企業業績の回復を目的に、全社的な取り組みとして「財務改革」「営業改革」「業務改革」の3本の柱を打ち立て ※弊社は「業務改革」プロジェクトへ参画 取り組み内容:当時、カンパニーごとに独立していた業務組織を全社横断のバーチャル機能組織化 各機能組織ごとに業務全体最適化施策を計画・実行 階層:ポートフォリオマネジメント タイプ:指揮型/管理型
このプロジェクトの特徴は、2つありました。 ① 同時に全社単位のプロジェクトが3つ並走し、それぞれが影響しあう関係にあること。 ② それぞれが独立し異なる文化背景を持つカンパニーからプロジェクトメンバーを構成したこと。 この特徴から、まずPMOコンサルタントとして力を入れた活動は、プロジェクト内施策への見直し指示権限のPMOへの集約でした。この活動の目的は、並行プロジェクトの情報を元に個別チームが判断を行うと、自分たちのプロジェクト の方針と異なる施策となる可能性を抑制することです。 実際にいくつかの施策の見直し案においては、本来のプロジェクト目的である全体業務最適化ではなく個別最適に陥る物もあり、この活動による一定の効果を発揮できました。 もう一つプロジェクト発足当初から着手した活動があります。プロジェクト標準の作成です。このプロジェクトでの標準化は、各チームが作成・更新する進捗管理表や課題管理表といったプロジェクト管理ドキュメントだけでなく、「言葉」にも及びました。 各組織で類似業務を担ってきたメンバーではありましたが、同じ言葉でも違った意味を含んでいたり逆に違った言葉が同じ意味を持っていたり。それが原因で大小様々な誤解が生じていました。そこで、プロジェクト内の共通言語を整備した用語集を作成したのです。これにより、プロジェクト内の意思疎通を高めることに成功しました。 このプロジェクトは、PMOコンサルタントのコミュニケーションに係るスキルをうまく使いプロジェクト活動をうまく推進した良い事例であると思います。 ~ PMOコンサルタントが発揮したスキル ~ ・プロジェクトの方針とそれに沿った施策見直し指示を正しく伝えるスキル ・プロジェクトメンバー同士がお互いの意思を正確に伝えることのできるコミュニケーション基盤の構築スキル *²
*²:このスキルマップは筆者オリジナルの視点で整理し、弊社若手スタッフがPMOコンサルタントとして案件参画する際に伝えている物です。

2.標準プロジェクト管理プロセス導入プロジェクト事例 ~標準化と教育・啓発~

< 事例概要 > 業種:SIer 目的/背景:各プロジェクトの管理手法や管理水準が担当するPMに依存しており、問題の検知手当が後手に回るケースが頻発 部門として、各プロジェクト状況を正確に判断・評価できる仕組みを構築 ※弊社は「業務改革」プロジェクトへ参画 取り組み内容:稼働する全プロジェクトに社内標準プロジェクト管理プロセスを適用・運用徹底 階層:プログラムマネジメント/プロジェクトマネジメント タイプ:管理型/支援型
このプロジェクトでは、部門の各プロジェクトに標準プロジェクト管理プロセス運用を徹底し、そのための「PMO」設置を必須とするための活動を支援するPMOコンサルタント、とやや複雑な役割となりました。 以前は、社内標準のプロジェクト管理プロセスがあるにも関わらず、適用・遵守されず、結果として各プロジェクトで問題が発生する状態でした。 そこで行った活動の骨子は3つあります。 1つ目は標準プロジェクト管理プロセスの改善です。既存のシステム開発に特化した管理プロセスをベースに、実運用に照らした改善を行いました。 次に、そのプロジェクト管理プロセスを各プロジェクトでの運用を義務付けました。実際には、部門付きの「PMO」として、各プロジェクトでの運用状況をモニタリングしながら標準プロジェクト管理プロセスに基づく運用教育を行ったのです。 最後、3つ目はプロジェクトマネジャー支援です。プロジェクトマネジャーによっては得手不得手もありプロジェクト管理タスクの遂行品質に差がありました。そこで、今度は各プロジェクト付きの「PMO」として、例えばプロジェクト計画の策定や進捗報告資料の作成などの管理業務実務をサポートしました。この活動は実際にプロジェクトを推進するといった効果に加え、プロジェクトマネジャーが具体的なプロジェクト管理作業をOJTで習得する機会となり人材育成としても有効な取組となりました。 このプロジェクトは、プログラムマネジメント階層とプロジェクトマネジメント階層という2つの階層にまたがる「PMO」の関係性を見ることのできる興味深い事例ではないでしょうか。 ~ PMOコンサルタントが発揮したスキル ~ ・標準プロジェクト管理プロセスのモニタリングと評価スキル ・社内に標準プロジェクト管理プロセスを定着化させる教育・啓発スキル ・プロジェクト計画の作成などの、プロジェクト管理プロセス実行スキル

3. システム導入プロジェクト事例 ~現状把握と実行管理~

< 事例概要 > 業種:金融業 目的/背景:事業規模拡大とシステム老朽化から現行会計システムでの業務運用が困難に 現行システムの機能不足を補うための手作業の削減による業務の効率化を行う 取組内容:現行会計システムリプレース/受発注プロセスから連なる現行業務の改善 階層:プログラムマネジメント タイプ:管理型/支援型
実は、このプロジェクト発足当初は「PMO」が組成されていませんでした。プロジェクトマネジャーも現業との兼務の状態。プロジェクトと銘打たれていますがタスクフォースの延長といった体制でした。 そのような状態でプロジェクトは活動していたのですが、日程が進むにつれて作業の遅延や課題の放置が散見されるようになってきたのです。 プロジェクトマネジャーも兼務の中で状況把握に努められてはいたのですが、如何せんこなせる作業量には限界があります。 そこで、ようやく「PMO」組成となりました。まず最初に取り組んだことは、プロジェクトの現状整理です。 課題の棚卸を行い、作業の実績から進捗状況を把握し、プロジェクトメンバーのプロジェクト参画工数もこの時点でようやく明るみに出すことが出来ました。 ここから、プロジェクト計画の見直し(実際には再計画)と同時に、プロジェクト管理プロセスやドキュメント整備が始まりました。 プロジェクト活動の再開後は、改めて進捗管理・課題管理・品質管理・スコープ管理・変更管理等の管理型PMOとしての業務に加え、プロジェクトの遅延を取り戻すため、プロジェクトメンバーのタスクの一部を引き取り推進する支援型PMOとしても作業を進めました。引き取りタスクには移行データの作成・整備といったタスクもあり、定型的な作業だけでなく業務知識・IT知識を求められる領域も含まれていました。 このプロジェクトは、「PMO」に関する知識としての目新しさは少ないかもしれませんが、「PMO」の有効性を改めて認識することが出来る事例です。 ~ PMOコンサルタントが発揮したスキル ~ ・プロジェクト現状のキャッチアップスキル ・プロジェクト計画の作成などの、プロジェクト管理プロセス実行スキル ・移行用会計データ作成等、会計基礎知識

3. まとめ ~PMOコンサルタントとしての活躍と成長~

・「問題を解決するのではなく、問題を発生させない」を最優先に考える ・プロジェクトの目的とゴールから、期待される役割は何かを考える癖を身に着ける それが出来るようになれば、作業をこなすだけではない、『プロジェクトを成功に導けるPMOコンサルタント』として一歩成長できることでしょう。
執筆者:的池 将輝

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